著者である院長 木津康博から、昨今のインプラント治療トラブルへの警鐘
ブローネマルク教授がインプラント治療を臨床応用されてから、46年が経過した。
現在、歯を失った多くの患者が本治療により快適な生活を取り戻すことができ、さらに歯科医師にとっても咬合崩壊を阻止する重要な治療方法を患者に提供することが出来るようになった。そのため、患者と歯科医師の両者にとって有効な治療方法であるインプラント治療の開発と進歩は、近年、急速に進んでいる。とくに、インプラント体の表面性状や形状の変化、また治療方法の開発進歩により、開発当時の治療内容とは大きく変化した。
そのことが、患者にとって有効な変化であることが望まれるが、残念ながら全ての開発が有効な結果となっている訳ではない。つまり、インプラント治療の方法だけが一人歩きをし、患者にとって有益な治療方法となっていない場合も多く見られるようである。
インプラント治療は診断、治療方針、外科、補綴、メインテナンスにおける全ての分野で、確実な治療が行わなければ、どこかで不良な結果となる総合的な治療方法であることを忘れてはならない。診断、治療計画のミスはインプラントの予後に大きく影響し、外科のミスはインプラントの予後だけではなく、生命に危険を及ぼすこともある。さらに、補綴、周囲粘膜のメインテナンス時のミスは、問題ない残存歯への影響なども生じ、患者にとって大きな苦痛をあたえてしまうことにもなる。
医療というものは新しいものが全て良いものではない、また、開発当時の歴史のある治療方法が最善というわけでも無い。つまり、歴史のある確実な医療と、多くの科学者が研究し開発進歩させた新しい医療の両者をバランス良く、現在の医療に取り入れていくことが重要と考えている。さらに、将来の患者および医療従事者にとって有効な治療を開発進歩させることが、現役の歯科医師をはじめとした医療従事者の義務である。そのためには、現在、多く施行されているインプラント治療を患者にとって確実のものとする必要があり、大きなミスは許されないのである。
医療は人間が感情を備えた人間を対象とすることから、そこにはミスやトラブルが生じることは避けられない。しかし、そのトラブルを未然に防ぐ努力、トラブルを早期に発見する知識、そしてトラブルを改善させる技術の習得が重要となる。これらのことがインプラント治療を行っている、われわれ医療従事者の義務と考えたことが、本書を企画、編集した理由である。歯科医師をはじめ多くの医療従事者がインプラント治療を行うにあたり、患者にとって有益となるようなトラブル対応とメインテナンスの知識と気持ちを本書で習得していただければ幸いである。
2011年10月1日 木津康博